口上前
- 2009年 10月31日
このたび、何を血迷ったか『光源氏の物語』を、ぼくが使えそうな一万単語ぐらいで翻訳することにしました。『光源氏の物語』は古典作品の中でも非常に人気のある作品で「日本文学の金字塔」とも呼ばれているらしいです。ぼくが尊敬する与謝野晶子や谷崎潤一郎も翻訳しており、今さらこんなことをしても、全く世の中の役に立たないと言うことは百も承知です。だいたい『徒然草』の覚束ない翻訳ですら六年もかかったぼくなのです。『光源氏の物語』を完訳する前に死んでしまうかも知れません。その際にはどうぞ察してください。
以前はぼくも歌人の端くれだったので、『光源氏の物語』で詠まれてる七百九十五首の和歌を稚拙誤訳しようと思っています。現代短歌への書き換えは、谷崎潤一郎でさえ躊躇していました。無謀極まりなく、恥知らずなことは百も承知です。でも、これだけの和歌を五・七・五・七・七に翻訳すれば歌集が一冊できるかもしれません。
ぼくは一回だけ『光源氏の物語』を原文で読みました。あまりの難解さに気が狂いそうになりました。そうして今のぼくが形成されたのかも知れません。こんな浮世離れした物語の翻訳をし出せば、ぼくも廃人になってしまう恐れがあります。今となっては「それもよかろう」と思うようになってきました。それはそれで幸せかも知れないから。達観して言えば、この翻訳は自分専用なのです。
『光源氏の物語』を翻訳するにあたって、よくよく考えると大変なことだと思ってきました。本当に全部翻訳する自信がありません。「今なら逃げ出せる」と今でも思っています。途中で断筆するかも知れません。もしぼくの翻訳が座礁して更新がなくなった場合、「どうしても続きが読みたい」と思う奇特な方がいらっしゃったら、ぜひ応援のメッセージをください。最後に連絡先を書いておきます。
その他、叱咤激励、誤訳や誤った解釈の指摘、校閲の協力、参考資料や金品の寄付、苦情や、ぼくの思い上がりに対する説教、脅迫、養子縁組の申し込み、何でも受け付けます。最近では迷惑メールしか届かず、英語で書かれたバイ@グラの個人輸入や、有閑マダムの誘惑、挙げ句の果てには「おっぱい丸出しで待ち伏せしているから」なんて言う脅迫メールばかり届くようになり、頭がおかしくなりかけています。生身の人間からお便りが来たら、どんなに嬉しいことやら。
ぼくは、古典の専門家ではありません。普通の社会人です。そんなぼくが、鞄の中に古語辞典や参考書を詰め込んで通勤する日々なので、肩がこって仕方がありません。この報われない徒労の果てには何があるのでしょうか? 何がぼくをここまでさせるのでしょうか? 自分でもよくわかりません。いつもどおり、底本は岩波文庫ですませます。図書館に行く時間も、資料を買うお金もないので、凡例に記した資料以外は使わず翻訳を開始します。だから、変な翻訳をしてしまうかもしれません。間違っていたら優しく教えてください。
『源氏物語』を愛する古典愛好家の皆様。生まれてすみません。
日本文学の研究を志す学生諸君。こんな得体の知れない個人訳を読んでいる場合ではありません。今すぐ原文を読んでください。
二〇〇九年 万聖節の前夜に
吾妻利秋 (連絡先:azumaあっとまーくtsurezuregusa.com)